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ちいさきなにも

小さき花にも

豊島 与志雄

「光」1948(昭和23)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,115 字 · 21 页

青空文庫

すぐ近くの、お寺の庭に、四五本の大きな銀杏樹がそびえ立っている。そばへ行って調べてみると、三本で、それが見ようによって、四本にも五本にも見える。こんもり茂っているのだ。その樹に、雀がたくさん巣くっている。朝早くから起きて、ピイチク、チュクチュク、ピイチク、チュクチュク、騒がしいったらない。朝日の光りがさしてくると、ぱっぱっと、一群れずつ飛び立ち、四散して、どこかへ行ってしまう。そして夕方また帰ってくる。何をしているのか、ピイチク、チュクチュク、ピイチク、チュクチュク、騒ぎまわって、薄暗くなるとひっそりしてしまう。

御近所で、たいへん迷惑してる家もある。私の家では、却ってそれを利用している。朝は眼覚時計の代りとなるし、夕方は終業の鐘の代りとなる。

お父さんが、中風でぶらぶらしていらっしゃるものだから、皆で働いた。御仕立物の小さな看板を出して、お母さんは和裁の針仕事、姉さんは洋裁のミシン。私は外に勤めに出た。二階は間貸しをしている。それでどうにか暮しを立てた。お母さんはもともと体が弱いたちで、お父さんの病気のこともあって、夜分は仕事をなさらない。しぜん、雀の鳴き声で仕事をやめ、おそい夕御飯となる。