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ちいさきなにも

小さき花にも

豊島 与志雄

「光」1948(昭和23)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,115 字 · 21 页

青空文庫

おかげで私は、先生以外の三人の名前も覚えてしまった。そして辞し去る機会を失った。

そんなことをして騒いでいるところへ、三十すぎの女と、まだ学校出たてらしい若い男が、先生をたずねて来た。二人とも雑誌記者だった。

「君は似てるね。」と先生が言った。

「あら、誰に。」と女は言った。

「あら、誰にか。よかろう。こんどは女言葉といこう。」

そして前の四人で、また始めた。

「あなた似てるわ。」

「あら、誰に。」

「啓子さんによ。」

「あたし啓子よ。」

「まあ、奇遇ね。」

そして賑かな祝杯。

私は呆れた。いったいこれが、新時代の苦悩の代弁者と目される中堅作家の、本当の姿なのであろうか。何かの擬態なのであろうか。私には見当もつかず、呆れて戸惑ってしまった。だが誰も、ふしぎがってる様子はなかった。弘田啓子も、私はすぐにその名前を知ったのだが、また学生上りの若者も、やがて話の元を明かされると、奇遇ねの問答を面白がり、声を揃えて騒ぎだし、まけずに祝杯を干した。お銚子が幾本も並んだ。

「小杉さん。」

ぽつねんとしている私へ、弘田啓子は呼びかけた。

「小杉さん、あんたが種をまいたんじゃないの。