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ちいさなたび

小さな旅

富田 木歩

「俳句世界」1918(大正7)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,532 字 · 6 页

青空文庫

妹は学友に起されて登校した。胃を病んでいる姉は昨夜の酒が過ぎたので痛むと云う。私は一人で朝餉をすませて、陽の一杯に漲っている若葉蔭に陣取って新聞を読む。

杉の芽に蝶つきかねてめぐりけり

新聞に鳥影さす庭若葉かな

服薬して身を横たえている姉は句作に耽っている私の方を見乍ら時々思い出したように「沢山出来るかえ」と訊く。庭へ来て交るむ雀のあわたゞしさや手近い墓地に鳴き交わす雀共の賑わしさの中に藪鶯が美しい音尻を引いては鳴くのである。

この家の裏に淡島寒月さんの居宅があって其の家裏を領している太い椎と松とに鶉が籠っている、そして昼頃から曇って来た静かな空気の中にゴロッチョゴロッチョと濁った声を伝えている。

弘福寺と牛島神社と、も一つ何処かのと三カ所で、相前後して入相の大太鼓を打ち初めた。

姉は俄かにあたふたと働き出して座敷を掃いたり庭に水を打ったりしている。

汽車音の若葉に籠る夕べかな

夕餉の後妹に少女雑誌を読みきかせていると如石が来た。私の留守に届いた聲風、良太兩兄の手紙を持って来たのである。

妹は今宵七松園の縁日へ行く約束があるので、躑躅を買うべき銭を姉から貰い受けて如石と共に出かけた。