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こいずみやくものかていせいかつ
小泉八雲の家庭生活
萩原 朔太郎
室生犀星と佐藤春夫の二詩友を偲びつつ
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,379 字 · 33 页
その寺は庭が広く、背後に老杉の茂った林があったので、彼の瞑想的な散歩に最も好ましい所であった。寺の老僧とも懇意になり、ついにある時、自分がその住持になりたいと言い出し、夫人と次のような問答をした。
『ママさん私この寺に坐る。むずかしいでしょうか』
『あなた、坊さんでない。ですから、むずかしいですね』
『私、坊さん。なんぼ仕合せですね。坊さんになるさえもよきです』
『あなた、坊さんになる。面白い坊さんでしょう。眼の大きい、鼻の高い、よき坊さんです』
『その同じ時、あなた比丘尼となりましょう。一雄(註、長男)小さい坊主です。いかに可愛いでしょう。毎日経よむと墓を弔いするで、よろこぶの生きるです』
『あなた、ほかの世、坊さんと生れて下さい』
『ああ、私願うです』
人間よりも、虫や鳥の方が幸福だと言ったヘルンは、人生について、悲哀の外の何物をも知らなかった。厭離一切娑婆世界の厭世観は、ヘルンの多くの作品中に一貫して、その特殊な文学情操の基調となってる。
彼の文学は、本質的に我が『方丈記』や『徒然草』の類と同じく、仏教的無常観によった『遁世者の文学』であり、ヘルン自身がまた現実の『遁世者』