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こいわいのいっか
小祝の一家
宮本 百合子
「文芸」1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页
夜になって勉が帰って来る。電燈がついているだけの違いで祖父ちゃんは一日たったのにやっぱり朝いたところで、新聞と煙草盆とを前におき、坐っていることが多かった。勉の留守には乙女が、祖母ちゃんが才覚してもって来た粉でそばがきぐらいをこしらえ皆を食べさせた。
三畳の方にある寝床に入ってから、勉が小声で、
「祖父ちゃん、一日何しているか?」
と乙女に訊いた。
「――坐ってたよ」
そして、おっかないことでも云うように乙女は一段と声をひそめた。
「祖父ちゃん、ぼけてしまったんであるまいか――」
勉は返事しなかった。そうやって頑固に坐って、祖父ちゃんは自分の暮しぶりを観察している。そのことを勉は感じた。本当に自分が働き出さねばならないか、さほどでないのか、見ているような貞之助の黙りこくった気分が、勉に苦々しく映っているのであった。
毎日、五時頃になるとダラダラ坂の下の通りにあるラジオ屋の前へ出かけてゆき、職業紹介の放送をきいたり、少年らしい赤い頬に青いシェードの灯かげをうけながら、長いこと飾窓に眺め入っていた勇が、一ヵ月ほどして、京橋の方にある会社の給仕に雇われるようになった。