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こいわいのいっか
小祝の一家
宮本 百合子
「文芸」1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页
もう懲りているのであった。
格子がガラリとあき、続いて乳母車の前輪を持ち上げて敷居を跨がす音がすると、ミツ子はどこからかそれをききつけ、抜からずころがり出して来た。
「お! お! じっちゃん!」
強情そうな小さい額を剽軽た悦びの表情でつり上げ、
「かしくいて!」
小さい足をとんび脚に坐って四角い風呂敷包みに黒い両手をかけた。
「これ、祖父ちゃんがあがってからむらえ」
「いやーン! これ、あたいんちのよゥ……」
祖父ちゃんは黙って上り框に腰かけ、砂糖のかかったビスケットを一つ二つミツ子の手に握らした。ミツ子は、上眼で一人一人祖父ちゃんから、祖母ちゃんへと眺めながら、出来るだけの速さで一どきにそれを頬ばる。――
台所での問答があってから、五六日後のことであった。十時頃乙女が、ひどいときは三日に一度ぐらいしか番のまわって来ない「すずらん」に坐っている間に編んだレースの内職を届け、六十銭ばかり貰って坂をぶらぶら中途まであがって来ると、むこうの方からおまわりがやって来た。片側は杉苗の畑で、道は一本である。悠くりのぼって来ながら乙女が見ていると、そのおまわりは一軒ずつ表札を眺めて来て、小祝の紙切れを貼り出してある格子の前へ立った。