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ろうじゅうのめがね

小笠原壱岐守

佐々木 味津三

佐々木味津三『小笠原壱岐守』。同一底本的分册已合并为一书。收入:老中の眼鏡、十万石の怪談、流行暗殺節、山県有朋の靴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,249 字 · 115 页

青空文庫

四

うまく危険をのがれたのである。

薩摩屋敷の塀に沿って、まっすぐ上岡崎へぬけると、この刺客たちが黒谷の巣と称していた光安院は、ほんのもう目と鼻だった。万一のことがあっても、あの寺の住職ならばと大楽源太郎の添書を貰って、根じろにしていた寺だった。

何のために上洛したのか、うすうすその住職は気がついているらしかったが、なにを言うにも今斬って、今逃げて来たばかりなのである。血のついたこの姿をまのあたりみられてはと、三人は盗むように境内を奥へ廻って、ねぐらに借りていた位牌堂の隣りの裏部屋へ、こっそり吸われていった。

「骨を折らしやがった。ここまで来ればもうこっちの城だ。丸公。まだいくらか残っているだろう。徳利をこっちへ貸してくれ」

たぐりよせるように抱えこむと、立てつづけに小次郎は、ぐびぐびあおった。

「どうです。先生は?」

「…………」

「おやりになりませんか、まだたっぷり二合位はありますよ」

しかし直人は、見向きもせずに、ぐったりと壁によりかかって、物憂げに両膝をだきかかえ乍ら、じっと目をとじたままだった。その顔は、なにかを思いこんでいるというよりも、あらゆることに疲れ切っているという顔だった。