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しょうねんのし

少年の死

豊島 与志雄

「新潮」1916(大正5)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,400 字 · 27 页

青空文庫

そして一度逢った金さんの妹の事を思い出した。どうやら横顔が似てる様にも思えてきた。彼は立留って、じっと其姿を見守った。

「何だよお前さんは?」と女は云った。そして暫く庄吉の姿を見廻わした。「まあ頭から濡れてるじゃないの。こっちにお入りよ、火に当らしてあげるから。」

女は庄吉を家の方へまねいたが、その時庄吉は急に何だか恐ろしくなって駈け出した。

それから庄吉は殆んど夢中であった。彼は高いライオンの広告塔を見た。黒く濁った掘割の水を見た。そして頭から冷たい雨に濡れて、手足の先が痲痺していた。それでも彼はなお低い方へと歩いていった。

庄吉はぱっと明るいものに眼が眩むように覚えた。何だか黒い影が彼の心から逃げて行った。或る大きいものが彼の上で羽搏きをした。そして彼は擾乱と熱火とのうちに巻き込まれた。それから最後に冷たいものを全身に感じた。

彼は疾走してくる電車に触れたのであった。電車は留まる間もなく、一二間彼を救助網につっかけて走ったが、遂に車輪の下に彼を轢いた。

もう夜遅くであった。脳味噌を露出し片腕を断ち切られた彼の身体が、無惨に地面の上に横っていた。