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そううんきょうよりだいせつざんへ
層雲峡より大雪山へ
大町 桂月
「中央公論」1923(大正12)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,082 字 · 20 页
天幕は張らずに敷きて、一同その上に臥す。焚ける火が一同の掛布団也。
三 大雪山の第二夜
塩谷温泉の連中は、日帰りの出来るぐらいに思いて、食物も十分に用意せず、草鞋も代りを持たず。さしあたり草鞋を作らざるべからずとて、材料を求むるに、綱、縄などのみにても間に合わず、我一行より不用なる手拭、風呂敷などを与えたるに、嘉助氏と温泉の人夫とが、四足の草鞋を作れり。いざとて偃松帯を上る。根曲り竹ならば、押分け押分けて上らるべし。偃松は押分くること能わず。手にてその枝を攫み、足にてその枝を踏みて、斜に上るの外なし。上るに従って、偃松小さくなり、傾斜緩なる処に至りて、低く地に偃す。その上を踏みて行くを得べし。うれしや、偃松を踏みて行くを得るようになれば、頂上は遠からざる也。四面の眺望も開けたり。層雲峡の楼閣脚底に落ちて、留辺志部平原も見ゆ。偃松いつしか尽きて、ここに黒岳の一峰の上に立てり。さても大雪山の頂上の広きこと哉。南の凌雲岳、東の赤岳、北の黒岳の主峰など、ほんの少しばかり突起するだけにて、見渡す限り波状を為せる平原也。その平原は一面の砂石にして、処々に御花畑あるのみにて、目を遮るものなきのみならず、足を遮るものもなし。