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やまのてのこ
山の手の子
水上 滝太郎
「三田文学」1911(明治44)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,551 字 · 31 页
かつて一度も人手を離れて家の外を歩いたことのなかった私は、烈しい車馬の往来が危なっかしくて、せっかく出た門の柱に噛り付いて不可思議な世間の活動を臆病な眼で見ているのであった。
麗らかな春の昼は、勢いよく坂を馳け下って行く俥の輪があげる軽塵にも知られた。目まぐるしい坂下の町をしばらく眺めていると天から地から満ち溢れた日光の中を影法師のような一隊が横町から現われて坂を上って来た。
「坊ちゃんお遊びな」
と遠くから声を揃えて迎いに来た町っ子を近々と見た時私は思わず門内に馳け込んでしまった。汚ならしい着物の、埃まみれの顔の、眼ばかり光る鼻垂らしはてんでに棒切れを持っていた。
「坊ちゃん、おいでな皆で遊ぶからよ」
中では一番年増の金ちゃんは尻切れ草履を引きずって門柱に手を掛けながら扉の陰にかくれて恐々覗いている私を誘った。坊ちゃんの小さい姿は町っ子の群れに取り巻かれて坂を下った。
間もなく私は兄になった。その当座の混雑は、私をして自由に町っ子となる機会を与えた。あるいは邪魔者のいない方がかかる折には結句いいと思って家の者は知っても黙っていたのかも知れない。
比較的に気の弱いお屋敷の子は荒々しい町っ子に混って負を取らないで遊ぶことは出来なかったが彼らは物珍しがって私をばちやほやする。