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やまのてのこ

山の手の子

水上 滝太郎

「三田文学」1911(明治44)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,551 字 · 31 页

青空文庫

こういう時に日ごろ町内から憎まれていたり、祝儀の心附けが少なかったりした家は思わぬ返報をされるものだった。坂上の屋敷へも鉄棒でガチャンガチャンと地面を打って脅かす奴を真先にいずれも酒気を吐いてワッショイワッショイと神輿を担ぎ込む。それをば、もう来るころと待っていて若干祝儀を出すとまたワッショウワッショウと温和しく引き上げて行くがいつの祭りの時だったかお隣の大竹さんでは心付けが少ないと言うので神輿の先棒で板塀を滅茶滅茶に衝き破られたことがあったのを、わが家も同じ目に逢わされはしないかと限りなき恐怖をもって私は玄関の障子を細目にあけながら乳母の袖の下に隠れて恐々神輿が黒門の外の明るい町へと引き上げて行くのを覗いたものだった。子供連もてんでに樽神輿を担ぎ廻って喧嘩の花を咲かせる。揃いの浴衣に黄色く染めた麻糸に鈴を付けた襷をして、真新しい手拭を向う鉢巻にし、白足袋の足にまでも汗を流してヤッチョウヤッチョウと馳け出すと背中の鈴がチャラチャラ鳴った。女中に手を曳かれて人込みにおどおどしながら町の片端を平生の服装で賑わいを見物するお屋敷の子は、金ちゃんや清ちゃんの汗みずくになって飛び廻る姿をどんなに羨ましくも悲しくも見送ったろう。