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やまぶきちょうのさつじん

山吹町の殺人

平林 初之輔

「新青年」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,530 字 · 37 页

青空文庫

「しかし」佐々木警部はまだ上野の説に不服そうに口をはさんだ。「貴方の仰言(おっしゃ)る犯人というのが木見のことであるなら、あの男は現に松本へ行ったじゃありませんか?」

「どうしてそれがわかりますかね?」

「どうしてって、今朝甲府から電報をうっているし、現に今飯田町駅へ着いた筈じゃありませんか?」

「なる程、甲府から電報をうったことはたしかです」と上野探偵は平然として答えた。「先刻(さっき)飯田町へ着いたことも現在私が見てきたのですから、これ程たしかなことはありません。だが、それだけでは、あの男が松本へ行ったという証拠にも、名古屋から中央線に乗ったという証拠にもならんじゃありませんか。あの男は、兇行をすましたあとで被害者の家を抜け出し、それから牛込駅へトランクをとりにひき返したのですよ。尤(もっと)もその間にどっかへ寄ったのかも知れませんがそれはどうでもよい問題です。まあ御覧なさい」と彼はポケットから旅行案内をとりだしてその中の或る頁(ページ)を指さしながらつづけた。「飯田町を十時に発車する長野行の汽車があります。あの男は牛込駅でトランクを受取って飯田町まで後戻りしてこの汽車に乗ったのです。