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やまもとゆうぞうしのきょうち

山本有三氏の境地

宮本 百合子

「文芸」1937(昭和12)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,155 字 · 32 页

青空文庫

「どうしてあんな危い、骨の折れることがやって見たいのかわれわれのような年配のものには分らないんですが……」というような表現で、謂わば狡く身を躱しているのである。

一九二〇年にこの作者によって書かれ、出世作とでも云うべき作品となった「生命の冠」で、山本有三氏は、その悲劇的主人公有村恒太郎を如何に生かしたであろうか。この主人公は「商人の務めは儲けるばかりが能ではない。」「商人の本務は契約を守ることだ。」「(前略)金に添っても添わなくても自分のやることはやらなくちゃならない」と云ってイギリスとの取引契約の遂行のために、敢て商売仇から破産させられることを辞さなかった。作者は、この主人公を衷心から支持し、登場人物の一人である医者の口をかりて、はっきりと次のように云わせている。

「悪い結果が来るから悪いことをしないのではない。結果の如何にかかわらず、人はしなくてはならない事を、しなければいけないということです。なあ有村さん。そうではありませんか」

允子もその事実を認めている今日の社会的悪の問題は、「波」の中で云われている如く「決して一つ一つのぼうふらじゃない。