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やまつばき

山椿

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1948(昭和23)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,911 字 · 32 页

青空文庫

一

一

梶井主馬と須藤きぬ女との結婚式は、十一月中旬の凍てのひどい宵に挙げられた。

主馬は二十五歳のとき亡き父の職を継いで作事奉行になった。それには世襲の意味もないではないが、彼にはその才能のあることが認められたのも慥かだ。作事奉行は建築営繕のいっさいを管掌する、城館、寺社の修復、表座敷から台所に至る諸什器調度の修繕、掃除、検査など、事務は複雑多岐にわたっているが、主馬は職を継いで一年と経たぬうちに、その適任であることを証拠だてた。然しこれは、主馬がとびぬけた俊才だという訳ではない、寧ろ彼は平凡な事務家であった。現実的できちょうめんで、なにごとでも類別し統計し、対照表に作ってみないと承知しないという風だ。母親が父に一年おくれて亡くなったあと、みちという従妹が主婦の役をしている。彼女は母親の末弟の遺した孤児で、十六の年に梶井へひきとられて来た。思わしい縁談もないうちに婚期が過ぎてしまい、自分でも諦めたのだろう、古流の生花と二条流の笛をせっせと稽古して、これで身を立てるのだと云っている。……こういう不遇な身の上にも拘らず、みちは陽気でものにこだわらない性質だった。