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やまつばき
山椿
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,911 字 · 32 页
「雷獣って割りかた引っ掻くんですってね」
勿論まじめな顔である、わっとみんな笑いだした。脇田信造などは笑いが止らないで、苦しがって涙をこぼしながら転げた。少し鎮まりかかると側で、「へえ――雷獣は割りかた引っ掻きますかねえ」と云う、それでまた脇田は転げまわる。しまいに仰反になって、どうやらこうやら笑い止んだとたん、みちが例の証明を出した。
「あら、だってそう云いましてよ」
脇田はひーいと両手で耳を塞ぎ、なにか訳のわからないことを叫びながら、驀地に廊下へとびだしていった。
主馬はこういう情景を眺めるだけでなく、今はそれを味わうこともできるようになった。以前の彼には苦にがしいだけだった。馬鹿げた、騒々しいものに過ぎなかった。合理的なこと、計算し統計に取れるもの以外は興味がもてなかった、――けれども今はもう違う、彼はどうやら憩いの味を知った、疲れた躯を休め、仕事でいっぱいになった神経を、理屈なしに柔らかくほぐして呉れるもの、慰安と休息がどんなものかということを、ようやく彼は知り始めたのである。
明くる正月の年賀の登城で、納戸奉行の栗原和助と一緒になった、そのとき栗原は警戒の身ぶりをしながら云った。