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さんけいにいくるひとびと

山谿に生くる人々

葉山 嘉樹

――生きる為に――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,699 字 · 67 页

青空文庫

焦れったいような、粘りつくような時間の前に、ほとんど垂直に、山は、その皮を剥ぎ取られた岩盤を、白く、他の一面の緑の中に浮き立たせて聳えていた。

まだ動かないのだ。

動かざる事、山の如し、であった。

だが、パラパラ、パラパラと、もう、五時間も前から、

「山が来るぞ」という警告は、山自身が発しているのだった。

大山の後から、旅の人は物珍らしさから、緑屋の者たちは恐怖と懸念から、椿の木の下に立って、崩壊し来る山に見入った。が、緑屋のおかみだけは、ただ一念に山を見入っていることができないらしかった。

それは、山は半丁も離れて見れば、何等の危険も含んでは見えなかったし、よしんば見えたにしても、おかみの場合では、じっとしていられる訳のものではなかったであろう。

自分の店と、墓地との間を、幾度も行ったり来たりした。

「ウォッ!」

という、押し殺したような、呻き声とも、溜息ともつかない声が、見上げている人々の口から一斉に出た。

山が、ゆるぎ出したのだった。

それは山がユラユラッとしたのだか、人々の眼がグラグラッとしたのだか、その刹那には分らなかった。

が、続いて、鈍い響で大地が呻き声を上げた。