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さんけいにいくるひとびと

山谿に生くる人々

葉山 嘉樹

――生きる為に――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,699 字 · 67 页

青空文庫

世界中が物情騒然たる時だ。そんな時世に「人類の幸福」なんて、とりとめもない事を、方々訊ね廻ってたら、慌て者があったら殴られちまうだろう。それにしても、俺は、とりとめのない事ではなく、何か、とりとめのある、ものの考え方ってのはできないんだろうか。こう、きちんとした、理路整然たる、胸のすくような、快刀乱麻を断つってえな風な、「ネー、テー、ドーン」といった調子で、断々乎として、生きて行きてえもんだ。俺なぁまるで、生みつけられたから、それで仕方なしに生きてる。どうにか生きてる。とにかく生きてる。止むなく生きてる。てな具合だ。畜生――

「痛えなあ」

と叫ぶと、大山は急に飛び上がった。

大山の足に、本来、馬につくべき、ツクツクボーシほどもある虻が、血を吸いかけて、その鋭い嘴を刺したのだった。

「畜生! 間違えるない。馬たあ違うぞ」

と、大山は大声で逃げ去った虻に、怒鳴りつけて、刺跡に唾をつけた。

「どうしたんだい。百足でも刺したんか」

と、由公が言った。

「百足なら理屈があるが、虻の野郎がよ」

大山の子が学校から帰って来た。今年から小学校に上がったのだが、何しろ、天龍川の川っ端から、大赤石の裾の、高原地帯まで一里半の峻坂を登って行くのだから、これは文字通りの登校であった。