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がけしたのいけ

崖下の池

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,109 字 · 25 页

青空文庫

」と辰子は囁きました。

「厄介なことになったな。何とかしなくちゃなるまい。」

恒吉はそう呟きましたが、やがて、晴れ晴れと眉根を開きました。

「うむ、分ったよ。大井の話が、だいたい分ってきた。」

そして、翌日、恒吉は大井増二郎を呼んで、突き込んだ話をしました。

増二郎はしきりに謝り、恐縮していました。

「実は、打ち明けて御相談いたそうかとも思いましたが、なにぶん、申しにくいことですし、いろいろ考えあぐみましたものですから……。」

然し、恒吉から見れば、申しにくいことではなかったのです――罹災の時に、雪子は亡くなり、その葬式もりっぱに済んでいる。ただ、時子の頭に、雪子と同じ子供が池の中にはいっていると、そういう幻想がどうして生れたか、それは不明だが、とにかく、その幻想を取り除けばよいことなのだ。

恒吉はなんだか腹がたってきました。

「よけいな心配をしないで、ただ、そういう幻を、お上さんの頭から逐い払えばいいじゃありませんか。それくらいのことが、出来ないんですか。」

「それはもう、私もよく考えてみましたが、なにぶん、あの時のことがはっきりしませんので……。」

そして大井増二郎の語るところはこうでした。