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がけしたのいけ

崖下の池

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,109 字 · 25 页

青空文庫

昼食に一休みして、午後は底の泥中から塵芥を取り除くことになりましたが、その時に、沢山のエビカニや若干の鰻や泥鰌と、大きな鯰が一匹とれました。塵芥は甚だ少く、木片や竹切が少しくあったきりで、膝頭ほどの泥はわりにきれいでした。

大きな鉢にいけてある水蓮は、若葉を伸ばしかけていました。崖下の砂地から、冷たい水が可なり湧き出していました。

恒吉は聊か淋しい気持ちで、やたらに煙草をふかしながら庭をぶらつきました。余りにも予期した通りで、池の中には何一つ怪しいものはありませんでした。愚劣蒙昧に対する挑戦、そんな気概ももうどこかへ消散してしまっていました。――見物人も子供たちが少し残ってるきりでした。

高鳥真作たちは、池の泥底でただ機械的に働いてるだけでした。辰子は、台所でただ機械的に晩の仕度にかかっていました。大井夫婦は、池の水が干上ると帰ってゆきました。その間、時子は始終、全く口を利かず、木彫のように体を硬ばらせ、表情をすべて奪われたような顔に、切れの長い眼を光らしているだけでした。

――すべてが白日に曝されたのだ。何が淋しいのか。

恒吉は自らそう言って、そして煙草を吹かしました。