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じゅんさじしょく
巡査辞職
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年11~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页
二人とも犯人の通り筋に寝ておったのに、二人とも気付かなかったんか」
一知が深いタメ息をしいしい顔を上げた。
「ハイ。私が気付きませんければ……彼女は死人と同然で……寝ると直ぐにグウグウ……」
と云う中に又、赤い顔になって頸低れた。
「フム。毎晩、何時頃に寝るのかお前達は……」
「両親達はラジオを聴いてから一時間ばかりで寝附きますから、私たちが寝付くのはドウしても十二時過になっておりました。もっともこの頃は九時か十時ぐらいに寝ているようです。ラジオを止めましたから……」
「何故ラジオを止めたのかね」
「養母さんが嫌いですから……」
と云う中に一知は又も無念そうに唇を噛んだ。
「ふうむ。惨酷いお養母さんじゃのう。起きるのは何時頃かね」
「大抵今朝ぐらいに起きます」
「夜業はせぬのか……藁細工なぞ……」
「致しません。時々小作米とか小遣の帳面を枕元の一燭の電燈で調べる位のことで、直ぐに寝てしまいます」
「老人というものはナカナカ寝付かれぬものというが、やっぱりソンナに早く寝てしまうのか……」
「さあ。私はよく存じませぬが……疲れて寝てしまいますので……」
その時に井戸端で二人の問答を聞いていたマユミが、草川巡査の顔を振返った。