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じゅんさじしょく

巡査辞職

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页

青空文庫

又は山の中の小さな石の祠を引っくり返し、お狐様の穴に懐中電燈を突込んだりして、寝ても醒めても兇器の捜索に夢中になっていた。その中に九月の末になって、やっと開始された兇器捜索を目的の溜池乾で、草川巡査はあんまり夢中になり過ぎたのであろう。一人の青年の働き方が足りないといって泥だらけの平手で殴り付けたりしたので、可哀相に今度は草川巡査が発狂したという評判まで立てられるようになった。……にも拘わらず草川巡査の狂人に近い熱心な努力は近郷近在の溜池をまで残る隈なく及んだのであったが、それでも兇器らしいものすら発見出来なかったので、事件の神秘性は、いよいよ高まって行くばかりであった。

草川巡査は自分でも自分の精神状態を疑うようになった。或る晩の十時過の事。睡むられぬままに着のみ着のままで、人通りの絶えた国道に出た。

大空の星の光りは夏と違ってスッカリ澄み切っていた。そこには深良屋敷の方向から匐い上って来た銀河が一すじ白々と横たわっていたが、その左右には今まで草川巡査が気付かなかった星霧や、星座や、星雲が、恰も人間の運命の神秘さと、宇宙の摂理の広大不可思議を暗示するかのように……そうして草川巡査の一個人の智恵の浅薄さ、微小さを冷笑するかのようにギラギラと輝き並んでいた。