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こうせつきょうほうずえ

巷説享保図絵・つづれ烏羽玉

林 不忘

林不忘『巷説享保図絵・つづれ烏羽玉』。同一底本的分册已合并为一书。收入:巷説享保図絵、つづれ烏羽玉。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 365,120 字 · 728 页

青空文庫

しかし、出ようによっては――、

「久七、久七」

閑山は声高にたった一人の下男を呼んだ。出て来た久七、酒好きだが愚鈍実直な男、閑山には無二の忠義者だ。その耳へ口を寄せて、閑山がささやく。

「あの鎧櫃をな、向島へひいて行ってくれ。具足が詰まっているから重いぞ」

「手車でようがしょう」

「御苦労だが頼む。晩には一升買おう」

支度に行こうとする久七を、閑山は急いで呼びとめた。

「ほほうっかり忘れよった。饗庭様へこの花瓶をお届けせにゃならぬ。口やかましいお方だ。またぽんぽんいいおるだろう。お前、すまんがな、どうせ少しのまわり道だ。往きに妻恋坂へ寄って、閑山からよろしく申しましたと口上を述べてこれを置いて、それから向島へ行ってくれ。わかったかな」

まもなく、とんだ具足を入れた鎧櫃と、ついでに、妻恋坂の殿様お買い上げの九谷の花瓶を積んだ小手車が、久七の手で閑山の店から引き出された。帰途は夜と覚悟してか、まのぬけた小田原提灯が一つ梶棒の先にぶら下がっていた。

上には上がある。これで見ると津賀閑山、いっぱしの腕のきく小悪党らしい。

久七の車が店を離れてだんだん小さくなって行くのを、すこし隔たった連雀町の通りに立って見送っていたのは、浅草からつけて来た仲間奴だが、車の上の鎧櫃にめざす女がはいっていようなどとは、お釈迦さまでも気がつく