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こうだんし

巷談師

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一七号」1950(昭和25)年8月3日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,894 字 · 22 页

青空文庫

それだけなのだ。それをきかせたい楽しさでいっぱいというわけだ。なにも私を選んできかせる必要はないように見える。第一、私にきかせるためには、方々へ問い合して、住所をさがさなければならない。ところが彼らは、その苦労を物ともせず、私に手紙をくれるのである。

私の必勝法と彼らのそれとは距りがあり(彼らはみんなベテランだ)その距りは絶対で、知己を感じるイワレはないように見える。しかし、彼らから見ると知己を感じるのかも知れない。

負けて手紙をよこしたというのは、ない。賭事をやる人間は、負けた時は黙々として健忘症となり、勝った時の記憶だけは死ぬまで忘れることができないという語部の精神に富んでいるらしい。つまり語部の代表たる巷談屋に彼らのユーカラを吹きこんでおこうという楽しい精神状態なのかも知れない。

苦情がでたのは「東京ジャングル」だ。まにうけて上野探訪にでかけたら、唖の女の子にはめぐり合わないし、お客を大切にして、ジャングルの平和をまもる情に溢れているどころか、一しょに泊った女の子に財布を持ち逃げされたよ、こまるじゃないか、アッハッハヽというようなわけだ。

さすがに上野探訪の風流心を起すほどの貴人であるから、怨みをのべても、悪意はないし、アッサリしている。