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おびひろまで
帯広まで
林 芙美子
「文藝春秋」1936(昭和11)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,656 字 · 28 页
右の人差指と、中指の根元にチェリイを挾んで、マッチを擦った。口紅が毒々しく吸い口を濡らした。立ちあがって雨戸を開けると、遠くで時々稲光りがしている。郊外へ続く川添いには真黒な野桜の並木が風に揺れていた。
伊代は九太に別れて一週間もすると、元からの独り住いのように、仕事を探しに街に出て行った。青い胴着をつけ、白いスカートをはいて、帽子もなくすたすたと歩いたが、脚が長いのですがすがしく見えた。伊代は銀座裏の小さい踊り場のダンサアになった。踊る時は何時も面白いビーズの手提袋を腕にぶらさげて、短いスポーツ着で踊った。その姿は如何にもテニスの帰りか、買いもの帰りの娘が一寸来て踊っていると云った様子なので、イヴニングドレスの女達よりも目立っていた。踊子上りなので脚はりゝしい位にすんなりしていたし、肉づきがいゝので遠目に爽やかに見えた。
「私、巴里の屋根の下なのよ」
マネイジャアや朋輩達にあれこれ服装のことについてうるさく云われると、伊代は澄ましてこう云っていた。――収入は、どうやら伊代が食べるだけはあった。
踊りながら、相手の男が「元気がよさそうだね」とからかうと伊代は小首をかしげて、「これでもやけなのよ。