轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

おびひろまで

帯広まで

林 芙美子

「文藝春秋」1936(昭和11)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,656 字 · 28 页

青空文庫

いてもいなくっても皆に判らないのよ」シナそば屋の灯の下で近々と向きあうと、伊代は九太のカフス釦をいじくりながらそんなことを云った。家庭にあっても伊代は誰からも愛されていないらしい。九太は青年らしく胸を熱くするのであった。笠のない白い電気の下で見ると、伊代は肌はかなり荒れていた。だが舞台の荒んだ化粧で見る伊代より、素顔の伊代の方が利発そうで、九太には好ましかった。伊代は十九歳であった。九太の残した丼の汁までちゅうと吸うと、子供のように笑窪のある手の甲で脣のはたを拭いた。

その雪の日から間もなく、上野の九太のアパートへ伊代がうつって来た。伊代がうつって来ると、九太は水族館を辞めて新宿西武館の楽士に雇われて行った。映画館の楽士に落ちつくと、九太は伊代の踊子生活を止めさせてしまった。九太の若い正義感が、妻を舞台に曝しておけなかったのだろう。二人の間に一年の月日が過ぎて行った。西武館は軈てトオキイになり、楽士が不要になってきた。弁士もいらなくなった。小舎主との小さな争議が何度かあったが、九太はあきらめたように新市区の映画館を渡り歩き、三年目には高田馬場の小さな映画館の楽士になっていた。