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ばくまついしんかいこだん
幕末維新懐古談
高村 光雲
03 安床の「安さん」の事
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,781 字 · 4 页
「その東雲という人は、お前の家の隣りにいた人で、それ、日本橋通り一丁目の須原屋茂兵衛の出版した『江戸名所図会』を専門に摺った人で、奥村藤兵衛さんの悴の藤次郎さん、……これがその東雲という方なんで、今では浅草諏訪町に立派な家を構え……」と、キサクな調子で、小肥りの身体を乗り出して話すものでありますから、父も心動き、
「聞けば、その東雲先生は、この同じ長屋に生まれた人だというし、お前とは親しいお方というから、それでは一つその彫刻の方へお願い申そうか。話の決まった大工の方は親類のことでかえって好いと思ったが、また考えて見ると、奉公先の身内なのは事によってはおもしろくないかも知れない。折角お前さんもそういって勧めてくれること故、これは一つお願い申すことにしよう。だが、まあ当人の志が何よりだから悴に聞いて見ましょう」というと、「そのことなら本人はもう先刻承知のことだ。善は急げだ、髪も結っていることだし、早速それでは明日俺が伴れて行こう」
と、ここで話が決まりました。
この安さんという人は、その頃四十格好で、気性の至極面白い世話好きの人でありましたから、早速、先方へその話をして、翌日、私を東雲師匠の宅へ伴れて行ってくれました。