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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
平林初之輔『平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕』。同一底本的分册已合并为一书。收入:或る探訪記者の話、探偵戯曲 仮面の男、オパール色の手紙、私はかうして死んだ!、祭の夜、秘密、華やかな罪過、動物園の一夜、誰が何故彼を殺したか。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 113,247 字 · 229 页
子供らは面白がってそれを見てきゃっきゃっ騒いでいたが、この男は、まるで笑いを禁じられた人のように、真面目な義務的な仕事をしている時のような態度で、猿にビスケットをやっている。ビスケットは時々網から弾じき返されて柵の外へころがり出た。驚くべき濫費だ。私はこの男の計り知れざる財力に一種の崇拝を感じた。不思議なもので、こんな時には、嫉妬の念よりも、崇拝の念が先におこるものだ。
群衆の足はことごとく入口の方へ向かって、徐々にではあるが、しかし、一斉に動き出した。園内には人影がだんだん疎らになってくる。先刻のビスケットの男もいつの間にかあたりに見えなくなっていた。
突然、全くだし抜けに、素晴らしい霊感のように、一つの考えが私の頭の中を横ぎった。私はそっとしゃがんで脚もとに転げていたビスケットを二つ拾い上げた。そして、誰も見ていないことをたしかめてから、急いでそれを口の中へほうり込んだ。菓子は餓えた味覚を麻痺させながら舌の上で解けていった。
私は暗示にかけられた人間のように、急に見ちがえるように元気になった。肉体もすばしこくなったが、それにも増して頭が敏活にはたらき出した。