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ひらがげんないとりものちょう

平賀源内捕物帳

久生 十蘭

萩寺の女

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,159 字 · 39 页

青空文庫

……でも、ここはひとの出入りがはげしいから、むさ苦しいところですが、あちきの部屋までおいで願って……」

源内先生は、頷いて、

「あまり、手間はとらせないつもりだから、じゃ、そういうことにして……」

楽屋部屋へ通ると、路考は淑やかな手つきで煎茶をすすめながら、

「……その年の春、あちきは『さらし三番叟』の所作だけで身体が暇なものでございますから、日頃ご無沙汰の分もふくめ、方々のお座敷を勤めておりました。そのうち、京都の万里小路というお公卿のお姫さまの殺手姫さまというお方にお見知りをいただき、その後二度三度、大音寺前の田川屋や三谷橋の八百善などでお目にかかっておりました。……そのころお年齢は二十八で、たげなとでも申しましょうか、たいへんに位のあるお顔つきで、おとりなしは極くお優しいのですが、なんとなく寄りつきにくいようなところもあって、打ちとけた話もたんとはございませんでした」

路考は、茶を一口啜って、掌の上で薄手茶碗の糸底を廻しながら、

「……そうして二、三度お逢いした後のある朝、いつも供に連れておいでになる腰元がまいりまして、何とも言わずに置いて行った螺鈿の小箱。