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ひらがげんないとりものちょう

平賀源内捕物帳

久生 十蘭

山王祭の大像

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,946 字 · 34 页

青空文庫

……何だろうと思って、そっと近寄って見ると、鳴海絞りの黒っぽい浴衣を着た里春が、片袖を顔へひき当てるようにして檐下に寝ているんです。……酔ってるのかと思って、肩へ手をかけて揺って見ると、酔っているんじゃない、泣いているんです。……こんな地面へ寝転がっていると夜露にあたるぜ、と言いますと、ああ、加賀屋の旦那ですか、手放しでお聞きにくいでしょうけど、あちきは毎晩ここで寝ているんです。……一尺でも定太郎に近いところで寝たいと思いましてねえ、どうぞ笑ってくださいまし……」

「そりゃ、気の毒なもんだ。……それで、定太郎のほうは、どうなんです」

加賀屋は、苦っぽろく笑って、

「土州屋さん、これはあたしが言うんじゃありません。いくら何でも、頭を禿げらかしたあたしがこんなことを言うわけがない。これは、世間の評判です、どうか、そのつもりでお聴きください。……世間じゃ、定太郎を馬鹿野郎だと言っています。馬鹿も馬鹿も大たわけ。……なるほど、相手はしがない清元の師匠。織元のお嬢さんとは比べものにはなりますまいが、人間の真情は金じゃ買われない。この世で、何が馬鹿だといって、人情を汲み取れねえ奴ぐらい馬鹿はありません……」