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こうふくのかんかく

幸福の感覚

宮本 百合子

「婦人画報」1940(昭和15)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,231 字 · 14 页

青空文庫

若い女のひとは、どっさりいろいろの文学作品を読んでいる。彼女たちは、どんな風に文学を読むのであろうか。女のひとが、特に幸福というものを何か波瀾のそとのもの、悲しみの外のものと固定させた形で追求していることについて疑問が生じたとき、私の心にひきつづいて起った問いはそれであった。女のひとはどんなに文学を読むのだろうか、と。何故なら本当のいい文学の作品は、その作品の世界で決して筋を運んでいるばかりではなく、きっと、ある条件とのいきさつの間で人間がどんな風に生きたかという、その心と肉体との過程を描き出しているものである。偶然な街上のできごとで生じた人と人との間の波瀾がどう納ったかという話ではなくて、ある性格と性格との組み合わせとその背後にある社会の事情などから、どんな必然の緊迫した経過が生じて来たか、例えば「アンナ・カレーニナ」は、このことをはっきり誰にも分らせると思う。

この小説は一篇のまぎれない悲劇である。アンナの不幸を目にも心にもまざまざと描きつくした悲劇であるにかかわらず、私たちがそれを読んでいるときに受ける感動は美しくて、その震撼には不思議な甘美さがこめられている。