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ゆうれいぶね
幽霊船
小川 未明
「赤い鳥」1924(大正13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,633 字 · 8 页
けれど、その声は、聞こえませんでした。
おりから、入り日の影が、波の上を明るく照らしました。そして、船に乗っている二人の顔を赤く彩って見せたのです。
「ああ、なつかしい、まさしく甲と丙だ! よく死なずに帰ってくれた。」と、乙は、目に、熱い涙をいっぱい流して喜びました。
やがて、その船は、すぐ間近にまいりました。
「おうい。」と、乙はまた両手を挙げて叫びました。
甲と丙の二人は、それに対して、答えるであろうと思ったのに、音なく、船をこいで、前方を横切ったかと思うと、その姿は、煙のごとく消えてしまったのです。
乙は、びっくりしてしまいました。
「幽霊船だ!」
こういうと、乙は、がっかりとして、自分の体を砂の上に投げて泣きだしました。彼は、疲れた頭に、いろいろの幻影を見ました。夜中、うなされつづけました。そして、ふたたび、明るくなったときに、彼の目は、血走って、興奮しきっていました。
ちょうど、その日の昼過ぎごろでありました。乙は、顔をあげて、沖の方を見ますと、まごう方なき、なつかしい船の姿を見ました。しかも、昨日見たと同じい……幽霊船の……こちらへこいでくるのを見ました。