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ひろばのベンチ
広場のベンチ
豊島 与志雄
「文芸」1951(昭和26)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,998 字 · 15 页
公園と言うには余りに狭く、街路に面した一種の広場で、そこの、篠懸の木の根本に、ベンチが一つ置かれていた。重い曇り空から、細雨が粗らに落ちていて、木斛の葉も柳の葉も、夾竹桃の茂みも、しっとり濡れていたが、篠懸の葉下のベンチはまだ乾いていた。
そのベンチに、野呂十内が独り腰掛けていた。手提鞄を膝に置いて両手で抱え、帽子の縁を深く垂らし、眼を地面に落して、我を忘れたように考え込んでるのである。
雨を避けてその木陰に逃げこんだのでは、勿論なかった。街路を通る人々のうちにも、傘をさしてる者は極めて少なかった。濃霧とも見做せるほどの細雨である。ただ、空の曇りかたが如何にも重苦しかった。
十内は溜息をついた。
先刻、街路の人通りからはぐれるように、広場へふみこんで、ベンチに腰を下す時、殆んど無意識にあたりを見廻した、その動作の感覚が、まだ残っていた。
あの顔、青服の少女の顔が、また見えてくるかも知れなかった。
十内が寄寓してる家から、電車通りへ出る道筋の一つに、神社の境内を通過してゆくのがあった。少し遠廻りではあるが、静かだった。裏手からはいって、立ち並んでる大木と社殿との間を通ると、神社の正面に出る。