轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ひろば

広場

宮本 百合子

「文芸」1940(昭和15)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,809 字 · 31 页

青空文庫

「あなた方、かえる迄にもう何度来られるかしら。一つおいしくお茶を入れて御馳走しましょう」

石油コンロで湯をわかし、オリガがジャムをとりわけていると、その手元を見守っていた素子が遂に辛棒しきれなくなった風で、

「私が帰ることは確だけれど、朝子さんがかえるかどうかは知りませんよ」

変にしずかな声で云った。オリガは、

「本当に?」

びっくりした表情を素子に向け、朝子に向けた。

「モトコさん真面目に云っているの?」

「真面目さ」

朝子は困惑した顔つきで黙っていた。その顔をじっと見ていて、オリガの眥に皺のある大きい眼に思いやりの柔かみが浮んだ。

「それで――もう決定したの?」

「いいえ、まだ」

誰もそれ以上は云わず、暫く皆だまり込んでしまった。やがてオリガが、自然に話題をかえて自分の小さい甥の噂をはじめた。それからまた一転して、今度は素子と俚諺の話がはじまった。その話では素子が感興を面に浮べ、帳面をひろげて書きこんだりしている。

朝子はこの問題がおこって以来、初めて、いいえ、まだ、という二言で素子の前にも自分の心を表明したわけなのであったが、そう言葉に出された自分の声を聴いてみると、一面では至極当然簡単に決定しそうなことが決定しかねているという、心持の撓いに愕く気持がつよく湧いた。