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ひろば
広場
宮本 百合子
「文芸」1940(昭和15)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,809 字 · 31 页
みんなというのはもちろん朝子の生れた土地のみんな、こういうよろこびをよろこびたいと思っている正直なみんなのことで、例えば今劇場の円天井をとび交う歌声をきいても、朝子の深い感激にはまぎれもなく、自分のほかの幾千幾万のここにい合わせない人々の心のよろこびたい熱望が引き剥せない訴えの裏づけとなって感情に迫って来ているのであった。こういう感動の刹那、朝子はいつも自分の素肌の胸へわが生とともに歴史の明暗をかき抱くような激しい情緒を経験するのであった。
おお
われら 若い者
われら 若い者
バルコニーではまだ歌っていて、しかも初めよりはだんだんうまく歌っている。
朝子は凝っと聴いていて、やがて颯っと顔を赤らめいきなり涙をあふらした。
「どうかした?」
並んでいる素子がきくのに、朝子は黙って首をふった。若者の歌やよろこびの光景は、ここへ来て十ヵ月ほど経ったとき東京で自殺した弟の保の面影を痛惜をもってまざまざと甦えらしたのであった。それに連関して朝子の心には声なき絶叫がひびいた。われら、いつの日にかこの歌をうたわん。――われらというのは、やはりこのわれら自分たちをこめて遠いところにいる幾千、幾万だと、朝子は切実に感じるのであった。