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しょみんせいかつ

庶民生活

豊島 与志雄

「改造」1952(昭和27)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,353 字 · 21 页

青空文庫

すると、店の硝子戸を勢よく開けて、可なり年配のひどく痩せた女が出て来た。酒を飲む時はたいてい内山に附き添ってる山田朋子だった。その日も一緒に飲んでいて、勘定するためにちょっと後れたのだったろう。内山の様子を見て、彼女は手を執らんばかりにして言った。

「まあ、呆れた先生ね。先生、もう帰りましょうよ。」

三文画家を先生と呼ぶのも、呆れたことだった。だが、内山先生、彼女に何か言われるとわりに従順で、すぐに立ち上り、二人肩を並べて立ち去っていった。

その後ろ姿を見送って、私は微笑した。日本にも変り者が出て来たなと思った。そして自分もつい一杯飲みたくなって、峠の茶屋にはいっていった。

店内には、眼のくるりとした粗末な洋装の若い女客が、片隅でひっそりとソバをすすっていたが、その方には全く気兼ねなしに、先程の奥さんとおばさんとが、しきりに意見を闘わしていた。

「わたしだったら、ばかばかしくて、やめてしまいますよ。」

奥さんは吐き出すように言った。おばさんはそれに反対した。

「いいえ、はたからはどう見えようと、ほんとうに、お互に好きらしいんですよ。」

「でも、あまり見せつけがましくて……。