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いようへん
影を踏まれた女
岡本 綺堂
岡本綺堂『影を踏まれた女』。同一底本的分册已合并为一书。收入:異妖編、月の夜がたり。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,110 字 · 46 页
すると、あくる日になって、となりのお貞さんが家の娘にこんなことを話したそうです。わたしはゆうべぐらい怖かったことはない。なんでも暗いお堀端のようなところを歩いていると、ひとりのお侍が出て来て、いきなり刀をぬいて斬りつけようとする。逃げても、逃げても、追っかけてくる。それでも一生懸命に家まで逃げて帰って、表口から転げるように駈け込んで、まあよかったと思うと夢がさめた。そんなら夢であったのか。どうしてこんな怖い夢を見たのかと思う途端に、表の戸を叩く音がきこえて、おっ母さんが出てみると、表には一人のお侍が立っていて、その人のいうには、今ここへくる途中で往来のまん中に火の玉のようなものが転げあるいているのを見た……。」
聞いている女房はまたも胸の動悸が高くなった。亭主は一と息ついてまた話し出した。
「そこでそのお侍は、きっと狐か狸がおれを化かすに相違ないと思って、刀を抜いて追いまわしているうちに、その火の玉は宙を飛んでここの家へはいった。ほんとうの火の玉か、化物か、それは勿論判らないが、なにしろここの家へ飛び込んだのを確かに見届けたから、念のために断って置くとかいうのだそうです。