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かれはだれをころしたか
彼は誰を殺したか
浜尾 四郎
「文藝春秋」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,147 字 · 27 页
ところで子爵は、毎朝自動車を自ら駈って日比谷公園を通るのです。偶然にも或る朝、子爵は相手がここを通るのを見ました。時々、一方は徒歩、一方は車で公園のあたりで摺れ違う。そのうち子爵は相手の時間が一定しているのに気付きます。健康上いいからという理由で時間をくり上げて相手と必ず会うようにしはじめました。
ところで伯爵、あなたの事件で、私はその小説家に云われてから気が付いたのですがね。日比谷公園ともあろう所で、あの時分どうして誰も他に人が居なかったかということを調べて見たのです。すると妙なことを発見したんですよ。どういう理由か一寸判らないが、あの事件のあった個所は、日曜日の朝は別ですが、他の朝はある一定の時間――無論極く短い間ですが人通りが全く一時に途絶えるという事実、而もそれが丁度伯爵あなたがあの日あそこを通られた時間だ、という事実が判って来ました。伯爵、半年も同じ道をドライヴして居たこの物語の子爵某氏にそれが発見されぬ筈はありません。
扠、ここまで来て私はこの小説の中の子爵の考えを始めから辿って見ましょう。まず弟が殺されたと思う。ひそかに注意して見ると弟の仇たる某紳士が神経衰弱に罹って役所を休んでしまう。