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かれはだれをころしたか
彼は誰を殺したか
浜尾 四郎
「文藝春秋」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,147 字 · 27 页
――けしからん、あいつ……自殺だ、自殺だ!」とあえいだ。
「お帰りになるならもうお帰りになってよろしい」
うす気味悪い笑をたたえてドアを助けて開けてくれた大谷検事を後に、よろめくように伯爵は廊下に出た。
三
それから一週間たってからのある夜、伯爵は日記の中に次のような感想を認めていた。
「驚くべきは大谷検事の推理だ。若くは想像だ。全く俺の考えた通りの事を云っている。而も自信に満ちたあの態度! 全く俺はあの通りの計画をしてあの日あの場所まで行ったに違いない。しかし、自然のする皮肉を、われ等の頭の力で見通せると思うか、俺も誤って居た。しかし検事も俺同様の誤算をしていたのだ。
俺が中条の身体めがけて車をぶつけようとした刹那だった。不意に中条の方がよろよろとして俺の車の方向にとび出して来たのだ。現在殺そうとしている相手だが、しかしこの刹那俺は全く狼狽した。俺は殆ど直覚的に避けようとしてハンドルを切った。けれども間に合わなかったんだ。中条の奴、良心の苛責に堪えかねたか、俺の車にとび込みやがったんだ。
今となっては、誰も人の居なかったことが残念だ、俺は人殺しを計画した。