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おほりばたさんだい
御堀端三題
岡本 綺堂
柳のかげ「文藝春秋」1937(昭和12)年8月、怪談「モダン日本」1936(昭和11)年9月、三宅坂「文藝春秋」1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,863 字 · 12 页
その立ちン坊もここで氷水を飲み、あま酒を飲んでいた。
立ちン坊といっても、毎日おなじ顔が出ているのである。直ぐ傍には桜田門外の派出所もある。したがって、彼らは他の人々に対して、無作法や不穏の言動を試みることはない。ここに休んでいる人々を相手に、いつも愉快に談笑しているのである。私もこの立ちン坊君を相手にして、しばしば語ったことがある。
私が最も多くこの柳の蔭に休息して、堀ばたの凉風の恩恵にあずかったのは、明治二十年から二十二年の頃、即ち私の十六歳から十八歳に至る頃であった。その当時、府立の一中は築地の河岸、今日の東京劇場所在地に移っていたので、麹町に住んでいる私は毎日この堀ばたを往来しなければならなかった。朝は登校を急ぐのと、まだそれほどに暑くもないので、この柳を横眼に見るだけで通り過ぎたが、帰り路は午後の日盛りになるので、築地から銀座を横ぎり、数寄屋橋見附を這入って有楽町を通り抜けて来ると、ここらが丁度休み場所である。
日蔭のない堀ばたの一本道を通って、例のうなぎ釣りなぞを覗きながら、この柳の下に辿り着くと、そこにはいつでも三、四人、多い時には七、八人が休んでいる。