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こころにうずくよっきゅうがある
心に疼く欲求がある
宮本 百合子
「中央公論」文芸特集号第四号、1950(昭和25)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,908 字 · 24 页
福田恆存は、宮本百合子の文学を早く卒業してしまうように、と忠告していたのだった。一つの社会が、ある文学を卒業するという場合、それは、どういう状態をさすのだろう。ある読者の人生経験の角度が、ある作家の人生と文学の角度とくいちがって来て、そこに共感が失われるという事実はしばしば起り得る。けれどもこの場合は、一つの社会が、ある文学を生きこしてしまったこと――卒業したことにはならない。「伸子」を書いたのち、一九三〇年の中頃から、私は、机の上において、何となしその頁をひらいて数行をよむことで創作への熱心を刺戟されるような文学を見出せなくなって、途方にくれた。けれどもこの経験は、日本の社会の現実認識の方法と文学評価が、全体として志賀直哉の文学を卒業した、という事実を語ることでないのは明らかである。「アンナ・カレーニナ」の悲劇がほんとうに卒業された文学になった、ということは、その社会に新しい人間性の全基準が生れ、新しいモラルのなりたつ社会的条件が確立した場合にだけ云われる。しかも、外部的にそういう社会条件がなり立ったばかりでなく、そのように新しくなった社会の成員の感情の内部までも、新しい発展に立つようになったとき、はじめて、「アンナ・カレーニナ」