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こころのかわ
心の河
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,442 字 · 37 页
さよは、妙に真剣で、頭の奥から糸でも繰り出すような眼付で話しながら、少しあやふやなところに来ると、
「そうじゃあなくって? 違って? まるで違うこと?」
と念を押す。全然見当の脱れた時、保夫はさも面白そうに高笑いした。そして、遠慮なく、
「莫迦(ばか)」
を連発して彼女を揶揄(やゆ)した。さよは、額の隅を掻いて敗亡を示した。当がはずれても、結局食後の座興として決して不適当なものではない。然し、十中七八まで保夫は彼女の言葉を正面から否定はしなかった。その代り、はっきり承認もしない。彼は、にやにやしながら、
「まあそう思うならそうして置くさ」
と云うのであった。
この当て役が反対に保夫に振りつけられると、二人の会話は、さよがその役を持った時ほど快活に、熱をもっては進まなかった。
彼女は良人に注文するだろう。
「きのう吉村さんがいらしった時ね、私、あの方について感じたことがあるのです。何だとお思いになって? 鈴木さんと比較して――当てて頂戴」
保夫は、気も乗らなそうに煙草の烟(けむり)を吹いた。
「何の稽古が始るのかい。――吉村について感じたって……漠然としすぎて問題になりゃあしないよ」