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こころのめ

心の芽

小川 未明

「少国民の友 22巻11号」1946(昭和21)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,922 字 · 10 页

青空文庫

「あのとき、もち棒があれば、とれたかもしれぬ。」

くちおしく思うけれども、また、子供の時分のことで、よく飼い方も知らぬから、殺せばかわいそうだったとも考え、かえって逃げたのを喜ぶ心にもなるのでした。彼は、しばらく列の中に立ちながら、夢を見る気で空想をつづけると、ふいに、空から、ひらひらと、花びらの落ちるように、一ぴきの黒いちょうが降りて、そばの砂の上で体を休めたのです。

「花のない、人間ばかりのところへ、どうして、ちょうが、飛んできたのか。」

自然界には、想像もつかぬようなことがあるものだと思いました。正吉は、いまでは子供のときとちがって、めずらしいからといって、すぐ手を出して、捕らえようとはしませんでした。そのかわり、おちついて、色や、姿をよく観察する機会を与えられたのを喜び、ちょうの羽についている模様まで、つくづくとながめたのでした。

「なんという、不思議な、きれいなものだろう。神さまの力ででもなければ、つくれぬものだ。」

一ぴきの虫でさえ、子細に見れば、見るほど美しいのを知りました。はじめて、それに気がつくと、雲も、花も、すべてがおどろくばかり美しかったのであります。