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しんれいさつじんじけん

心霊殺人事件

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第八巻第一四号(創作二十二人集)」1954(昭和29)年10月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,557 字 · 52 页

青空文庫

そうこうしているところへ、吉田八十松さんが仕方なく自分で縄をといて出てきました。あの人にしてみれば自分で縄ぬけできるのを人に知られたくないわけですが、様子が判ってみればいつまでもボックスに鎮坐していられなくなったのでしょう。もっとも、殺人どこ吹く風というように、手首をもんでいるばかり、一言も喋りませんでした。ちょッとした変人ですね。心霊術師としては奇術の腕がたしかです。私が見たうちでは一番と申せましょう。夜光塗料をぬった道具類のさばきなぞはあざやかで、ハモニカを口にくわえて吹きながら、他のハモニカとメガホンとラッパの三ツを同時に空中に使いわけたのは一寸したものです。私ならもっとうまくやってのける自信はありますがね。どうも奇術の話ばかりで恐縮ですが、それしか注意していなかったんですから、どうにも仕方がありません。

茂手木の証言

仰有るように、ぼくが被害者に最も近い位置にいたわけなんですが、大変な音響でしたし、奇術にばかり心をとられていたものですから、人の気配も、被害者の刺された気配も、全く気がつきませんでした。え? 犯人の心当りですッて? あの場合、誰だって後閑さんを殺すことができましたよ。