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かいそう

快走

岡本 かの子

「令女界」1938(昭和13)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,273 字 · 11 页

青空文庫

中の間で道子は弟の準二の正月着物を縫い終って、今度は兄の陸郎の分を縫いかけていた。

「それおやじのかい」

離れから廊下を歩いて来た陸郎は、通りすがりにちらと横目に見て訊いた。

「兄さんのよ。これから兄さんも会社以外はなるべく和服で済ますのよ」

道子は顔も上げないで、忙がしそうに縫い進みながら言った。

「国策の線に添ってというのだね」

「だから、着物の縫い直しや新調にこの頃は一日中大変よ」

「はははははは、一人で忙がしがってら、だがね、断って置くが、銀ぶらなぞに出かけるとき、俺は和服なんか着ないよ」

そう言ってさっさと廊下を歩いて行く兄の後姿を、道子は顔を上げてじっと見ていたが、ほーっと吐息をついて縫い物を畳の上に置いた。すると急に屈托して来て、大きな脊伸びをした。肩が凝って、坐り続けた両腿がだるく張った感じだった。道子は立上って廊下を歩き出した。そのまま玄関で下駄を履くと、冬晴れの午後の戸外へ出てみた。

陽は既に西に遠退いて、西の空を薄桃色に燃え立たせ、眼の前のまばらに立つ住宅は影絵のように黝ずんで見えていた。道子は光りを求めて進むように、住宅街を突っ切って空の開けた多摩川脇の草原に出た。