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いかりのむし
怒りの虫
豊島 与志雄
「群像」1951(昭和26)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,457 字 · 24 页
こんな肉体はもうたくさんだ。≫
木山が呼鈴を押すのを見て、由美子は心配げに眉根を寄せた。
「またお酒でしょう。もうこれぐらいになすったら。お身体がわるいとか仰言ってたじゃありませんか。」
「なあに、大丈夫ですよ。日本酒だけなら、いくら飲んだって……。」
≪お前が要求するのは、酒、酒、ただ酒だけなのか。≫
「それでは、ほんとに愛情を育てていって下さるおつもりですね。」
「そうです。いま言った通りです。」
「それでも、わたしが塚本と同じ家に住むとなると、やはりおいやでしょう。」
「そりゃあいやですね。」
「では、どうすればよろしいの。」
「あなたの決心次第です。」
「わたしの決心はもうきまっていますの。あなたさえ許して下されば、家を出てゆきます。」
「家を出て、どこへ行くんです。」
「どこでも、あなたのおよろしいところへ。」
「よろしいところって、そう急には見つかりませんよ。」
「しばらくの間なら、宿屋住居だって、ホテル住居だって、構いませんわ。それぐらいのお金は、わたし持っていますから。」
「然し、その先が問題ですよ。」
由美子はきっとなって、木山を見つめた。
「木山さん、わたしの眼をじっと見つめて下さい。