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いかりのむし
怒りの虫
豊島 与志雄
「群像」1951(昭和26)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,457 字 · 24 页
≪俺はまったくどうかしてるようだ。なぜ彼女をやさしくいたわってやれないのか。自分自身をやさしくいたわってやれないのか。これはまさしく肝臓のせいだ。肝臓がどこか悪いのだ。肝臓の悪い肉体なんか、ちきしょう、打っちゃってしまえ。≫
木山は不快な気分に陥っていった。女中が風呂のことを聞きに来たが、彼は一言で断った。
由美子ももう言葉少なになり、へんに打ち沈んでいた。
「今日は、これで帰ることにしましょうか。ちょっと、用もありますから。」
「そうですね。僕も、もうちょっと飲んでから、そうだ、出かけることにしよう。」
あやふやな話のまま、自動車を呼んで、由美子は先に帰っていった。
「二三日のうち、またお目にかかれますかしら。」
「ええ、いつでも、明日でもよろしい。お電話下さい。」
「こんどは、のんびりとお目にかかりましょうね。」
彼女の最後の言葉を、木山は炬燵にもぐり込んで反芻してみた。
≪のんびりと、ゆったりと、たのしく……初めのうちはそうだったが、どうして今日のようなことになったのか。彼女の態度も悪いが、原因は俺にもあるらしい。肝臓だ。肝臓が悪いんだ。≫
彼は他にちょっと廻ろうかと思いついたが、疲労を覚えたし、酔ってもいたので、やめてしまい、改めて、芸者を二人呼んで酒を飲み続けた。