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おもいだすかずかず

思い出すかずかず

宮本 百合子

「学友会雑誌」27号、誠之小学校、1921(大正10)年12月15日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,924 字 · 10 页

青空文庫

朝は薄寒いようで、賑やかでも引緊った空気は、昇る太陽につれて膨み機嫌よくなって来る。手に触り体が触れるあらゆる建物の部分は、幸福に乾いてぽかぽかしている。見えない運動場の隅から響いて来るときの声、すぐ目の前で、

「おーひとおぬけ、おーふたおぬけ、ぬけた、ちょんきり、おじゃみさーあくら」

と調子をつけて唱う声々の錯綜。――

その声と光に包まれながら、自分が廊下をゆっくり、ゆっくり歩いて行く。大人のような気になり、前後左右のものを観察し、その心持を感じ、悦びは感じながらも手持ち無沙汰な有様で歩いて行く。メリンスの、雲と菊の模様のある羽織を着、処々色の褪めた紫紺の袴を穿いた自分の様子は、どんな風にその場合見えただろう。鍵の手に曲った廊下を行くと、突当りの一寸左に、弟の教室があった。

そこへ行き、中を覗いて見る。大抵の時は、白い丸い顔をした彼が誰か一人二人の友達と遊んでい、自分を見つけ、笑う。入って行って、その時分でさえ、小さく窮屈だった椅子に横にかけ、机にのしかかり、話の仲間に入る。――

そういう昼休みの時、校舎の、多分北裏にあった、狭い、荒れた花壇は自分にとって忘られないものであった。