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おもいだすままに

思い出す儘に

木暮 理太郎

「山と渓谷」1934(昭和9)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,015 字 · 11 页

青空文庫

今年の六月私は十七年振りで東沢に入り、金山沢まで伐採の手が延びているのに驚いたが、谷が荒れて明るくなり、鉄砲がかけられ、河床には木の根や木片が堆く漂積しているのを見て、嘆声を洩らさずにはいられなかった。これは或は意想外に美事であった石楠とつつじの花盛りに眩惑されたせいであったかも知れぬ。近く西沢の檜を伐り出す為の立派なトロ道も造られつつある。釜沢も一昨年の十一月下旬の大雪に夥しく木が倒れて、新に崖崩れを生じ、両門の瀑壺は三分の二も埋もれ、其上流にあったヒョングリの滝は影も形も見えなくなっていた。これは人の力で如何ともし難いことであるにしても、私の胸に秘められた懐しい秩父の面影に次第に暗い蔭がさして行くのは是非もない。破風の登りなども、木は伐られ岩は掘りかえされて、生々しい路が美しい緑の斜面と余りにも不調和な人工の跡を止めている。またしても霧に捲かれたのが運が悪かったのか、それとも伐られてしまったのか、楽しみにしていた偃松の姿は終に目に入らなかった。これ程までに路を作らずともあるべきものを。

しかし心配するのは無用か、やがては自然がすべてを調和する時が来るであろう。