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おもいだすままに

思い出す儘に

木暮 理太郎

「山と渓谷」1934(昭和9)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,015 字 · 11 页

青空文庫

道は漸く川を離れて大きな落葉松が純林をなしている原に出た。間もなく十五、六戸の人家があったので、聞いて見るとそれが川端下であったのには全く驚いた。原は即ち戦場ヶ原で、落葉松の多いことは遥に梓山の戦場ヶ原に優っていた。其後十四年を過ぎた明治四十二年の秋に南日君と再び此原を通った時には、この落葉松林も大方は伐採されて、二、三の大木が諸所に散在しているに過ぎなかったが、それすら今は見られなくなってしまった。此時も金峰の登り口が発見出来ないで、私の下った沢を上ったのであった。

森林に対して無頓着というよりは、其美しさを解しなかった私は、後年嘆賞して措かない梓山の戦場ヶ原も、唯落葉松の大木と白樺(しらはりの木と教えられた)とが立ち並んでいる間に、子を連れた五、六頭の馬が放牧されていたことを覚えているに過ぎない。原から望まれる三宝山の如きも、立山から乗鞍、御岳、東西の両駒ヶ岳、最後に金峰山と、三十日近くも山旅を続けて、帰りを急ぐ私の心を捉えるには、余りに黒木が茂り過ぎていたらしい。昼も薄暗い十文字峠の陰鬱な黒木立は、さっさと通り抜けて、白妙岩の存在さえも気が附かなかったのは、何たる迂闊さであったろう。