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しそうどういんろん

思想動員論

戸坂 潤

「日本評論」日本評論社、1937(昭和12)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,012 字 · 18 页

青空文庫

支配者層のこのみずから産んだ苦心の跡は、注目に値いするものがあるのである。

まず最も幼稚な段階は「思想善導」と呼ばれるものであった。この言葉がよく云い現わしているように、すでに発生した悪思想を、あとから、つまり消極的に、反省的に導くことが善導であり、統制なるもののもつ嚮導原理(構成原理の反対だ)らしい響きを持っている点が面白いが、併し導くやり方には予め一定の予断があるのであって、要するに何か善い思想なるものへ導こうというのである。善人に育てようというような教育方針は今日では時代おくれで実際的な教育効果がなく、最も実質的な教育の過程はそれぞれの性能や性格を誘導することにあるというのが、近代的な人間嚮導の原則であるが、この近代的な教育では人間を何か積極的なタイプへ近づけようというようなことは考えない。陶冶は強制することではなくて育成することを意味する。所が思想善導なるものは、こうした近代的な自由主義的(?)教育観とは可なり隔りのあるものなのだ。自然な思想を是正して行くことではなくて、之を一定の予断された善思想へ強制して行くことなのだ。

こうした模範的モデルへ強制しようという広義の教育観は、実際、この思想善導と一緒に、この頃社会教育を支配し始めたように見える。